2011年12月15日

古本道入門

 「ラーメンと愛国」に続いてこの本を手に取ったせいか、ラーメン道に続いて古本道、古本をめぐる精神論を展開されたらたまらんなあと思いながら読み始めたのだが、その心配は杞憂に終わった。当然だろう。あの岡崎武志さんである。ナショナリズムとは無縁である。
 古本道とは銘打っているものの、それほどに堅苦しい本ではない。帯に書かれているように「本好き以上、古書通未満の方へ」の古本ガイドとして読んでもらいたいという著者の思いがにじみ出ている本である。
 古本道という言い方は私は好きではないのだが、古本の道に入るにはさまざまなアプローチの仕方があるということがここには書かれている。その中で、私が特に興味を持ったのはブックオフのことである。岡崎さんは普通の古本屋もブックオフも分け隔て無く利用しているようなのだが、それは達人の域に達した岡崎さんだからのことで、一般にはブックオフから古本屋への道は遠いように思う。
 休日の午後、あるいは週末の夜、地方都市ではあるが長野市のブックオフはどこも人であふれている。ところが、私どもの店はごくたまに来店客がある程度で、たいがいは閑散としたものだ。
 もちろん古本屋には立ち読みできるコミックもゲームソフトも置いてないから、人であふれるというわけにはいかないだろうが、本を買おうという人でもなかなか町の古本屋には足を運ばない。なぜなのだろうか。
 私は前からブックオフというのは、古本屋よりも新刊書店に近い存在なのではないかと思っている。店内は明るいし、置いてある本も新刊書店にある本と変わらない。しかし、値段は半額だ。だからブックオフで本を買おうという人たちは新刊書店に並んでいる本を安く買いたいという人たちなのだ。ところが町の古本屋を訪れる人というのは、新刊書店にはないような本を求めて来るのである。
 だから、ブックオフを利用している人は町の古本屋には来ない。そういう人がいたとして、それは例えば岡崎さんのようなブックオフで古本屋に並ぶような本を探そうという、すでに古本通になっている人たちなのである。
 岡崎さんは「あとがき」の中で「それ(ブックオフなどの新古書店ー筆者注)はあくまで入口であって、もっとその先に、鬱蒼とした古本の森が広がっている。私は「古本の森」のことも知る番人として、入口でとまどう初心者の人たちに、森の中を覗いてもらおうと、この入門書を書いた。」と記している。町の古本屋としてはありがたいのだが、新古書店から「鬱蒼とした古本の森」への道のりは遠いだろうなと思う。一部仕事や研究のために必要な古書を求める人以外の、古本屋に足を運ぶ人というのは、単に本を安く手に入れたいという人ではないような気がしているというのは帳場に立っての感想である。
 何と表現したらいいのだろうか。その本にまとわりついている時代の雰囲気のようなものも一緒に買いに来ているのではないかと思うのである。単なる読書家ではない、古本愛好家というのはそんな人たちで、彼らこそが町の古本屋のお客さんなのではないか。
 そういう人が一人でも増えてくれることを願いながらこの本を読んだ。著者の岡崎さんをはじめ、ここに紹介された達人たちには、ことあるごとに古本の楽しみを発信していただきたいものである。

古本道入門


同じカテゴリー(古本屋の日々)の記事画像
連休中に2つの古本市
町屋古本市雑感
小布施一箱古本市
安曇野一箱古本市
野口英世青春通り
会津の一箱古本市
同じカテゴリー(古本屋の日々)の記事
 古本ゴールデンウィーク終了 (2013-05-07 22:01)
 連休中に2つの古本市 (2013-04-12 10:24)
 町屋古本市雑感 (2013-03-16 08:23)
 小布施一箱古本市 (2012-10-22 01:18)
 安曇野一箱古本市 (2012-10-19 10:43)
 ちょっと困惑している。 (2012-10-17 21:49)

Posted by 南宜堂 at 03:02│Comments(0)古本屋の日々

 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。