史実とロマン
真田一族については、地元信州でも何種類かの本が出版されています。その出版の年を見ますと、NHKの大河ドラマで真田が登場した年とか、「真田太平記」が放映された年に合わせた便乗出版だったのだろうなと思います。
そのことをとやかく言うものではありません。地方出版の先細りの状況は痛いほどにわかりますし、そのためには一冊でも売れる機会を逃したくないのですから。
しかし、その内容をしさいに眺めていきますと、さすが信州人という思いがします。内容が実に啓蒙的で、ドラマのフィクションに対して、現実の歴史を提示することで読者の誤解を防ごうという親切心あふれた編集内容なのです。
これはもしかしたら郷土史研究の基本姿勢なのかなとも思います。あくまでも実証的に、想像や創作で歴史をねつ造してはいけないという態度なのでしょう。たとえば、1985年に東信史学会が編集・出版した「真田一族の史実とロマン」という本などもうタイトルからして、史実とロマン(想像)はきちんと区別しなければいけないという主張にあふれています。
残念なことに、真田一族に関しては、信用に足る史書の類が少なく、武田関係の資料などで補ってみてもその全貌はわからないようです。
一方で、大坂冬の陣から間もない江戸時代の初期に「難波戦記」とか「真田三代記」といった物語が作られ、徳川の世をはばかってか密かに書写されて広がっていたということもあったようです。
明治になっては、講談に取り上げられ、立川文庫の人気者となり、戦後には小説や映画にもなって真田人気は高まるのです。
「真田三代記」では、真田幸村は豊臣秀頼とともに薩摩に落ち延びますし、立川文庫では架空の英雄真田十勇士が大活躍します。
昨今では上田市のホームページでも紹介されていますように、戦国武将の人気投票で真田幸村が一位になるという異変も起こっているのです。この人気が幸村の何を根拠にしたものなのか、よくはわかりませんが、江戸や明治の幸村人気と共通しているのは作られた英雄像に拍手喝采を送るという大衆心理でしょうか。
こういう状況に、郷土史家の人々はありがたいと思う反面、幸村の実像を知ってほしいという気持ちにもなったのだと思います。
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