2008年08月04日

他山の石

他山の石 自分の人格を磨くのに役立つ材料。参考にすべき、他人のよくない言行。
 欲しいと思っていたいた本が文庫になっていて、古書店で見つけることができました。「畜生道の地球」(中公文庫)300円でした。1989年の刊行ですから、今は絶版になっていることでしょう。幸運でした。
 著者桐生悠々は戦前の一時期信濃毎日新聞の主筆をつとめたことのあるジャーナリストです。昭和3年信濃毎日の主筆となるのですが、昭和8年、折から行われた敵の本土空襲に備えた関東防空大演習に対し、「関東防空大演習を嗤う」という記事を執筆し、これがもとで信濃毎日を追われました。
 記事の内容は、今から考えれば昭和20年の本土各地への空襲を予言したものとしてその洞察力が評価されているのですが、決して反戦的な記事ではありません。敵に本土空襲を許すようなことがあれば、木と紙でできた日本の家屋はひとたまりもない。最新式のレーダー設備を備えた爆撃機なら灯火管制など何の役にも立たないというものでした。だから、敵の本土空襲をゆるさない戦略が必要なのであるというのです。
 記事は決して思想的なものではなく、どちらかというと技術論です。同じ時代「暗黒日記」を書いた清沢洌についても同様な展開が見られるのですが、戦争への反対は思想的とかヒューマニズムに基づくものではなく、どちらといえば損得勘定からの主張でした。清沢は圧倒的な経済力をもつアメリカと戦争しても勝てるはずがない。そんな戦争は損だからやめておけという論理です。桐生の場合も本土空襲に備える前に、本土空襲をさせない備えが必要ではないかと主張するのです。厳しい言論統制へのカムフラージュもあるのでしょうが、決していわゆるアカの発想ではないのです。
 そしてこの記事に対する圧力も軍部からの直接的な干渉というよりは、読者からの「信濃毎日」不買運動だったのです。



Posted by 南宜堂 at 23:52│Comments(0)

 
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