2010年07月13日

烏の森風雲録 5

 カンタローカラスはよくわからなくなりました。
「でも、こんなことが許されていいのだろうか」
 結果的には、灰色カラスは自分の思いを遂げるために何十羽もの烏の森のカラスたちの生活を奪ってしまったのです。総裁カラスも自分の保身のために灰色カラスを側近にすえ、それまで烏の森のために尽くしてきたカラスたちを追い払ってしまったのです。
 カンタローカラスには何の力もありません。烏の森にいた他のカラスたちの力を借りることはためらわれました。みんな新しい森に移り、生活の立て直しをはじめたばかりです。
 カンタローカラスの怒りは義憤ともいえるものです。そんな怒りのために生活を犠牲にしてくれとはとても言えません。カンタローカラスは一人で戦うことにしました。幸い彼は天涯孤独で、どんな結果になっても困る家族はいません。自分で責任を取ればいいだけです。
「あんたの正義感はわかるがね。正攻法でやってもこたえる相手ではないよ。やつはそれで失敗してきたんだから、うまく誤摩化されてしまうに決まっている。やめたほうがいいと思うがね」
 赤色カラスはそう言って忠告してくれましたが、長く一緒に暮らした総裁カラスです。話せば自分のことをわかってくれるのではないかと思いました。しかし、総裁カラスには何度手紙を送ってもなしのつぶて、烏の森に入るのにも灰色カラスたちの監視が厳しく、なかなか総裁カラスに近づくことはできません。
 そんな焦りの日々を過ごしていたカンタローカラスにひとつのニュースが飛び込んできました。近々、鳥の国の元首たちを集めたバードサミットが開かれるというのです。しかもそのサミットには総裁カラスも出席して、基調演説をするということでした。
 目立ちがりやの総裁カラスはきっと嬉々としてサミットに出掛けるにちがいありません。カンタローカラスはそのサミットの会場で総裁カラスと話しあおうと思いました。灰色カラスの目が届かない場所ならきっと腹を割って話しあうことができる。カンタローカラスはさっそく総裁カラスに手紙を書きました。
 しかしいくら待っても総裁カラスからは会おうという返事はありませんでした。完全に無視されたのです。赤色カラスに言えば「だから言わないことじゃない」とあきれられそうで黙っていました。



Posted by 南宜堂 at 09:39│Comments(0)
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