2010年07月16日

烏の森風雲録 10

 翌日の「バードタイムス」には、例の特派員発と称する得意げな記事が掲載されました。

4日、おこなわ(ママ)ハト共和国サッカー大会は、ドイツ、オランダの激しい戦いでした。大会を妨害する脅迫メールを送った黒いハトは、あらわれませんでした。ハト共同新聞社のポッポ記者に聞きます。

「現れなかった理由はなんでしょうか」
「警戒が厳重で、妨害に出たら、警備当局に連行される事もあると考え、しりごみしたのでしょう」
「なるほど」
「主催者は大変でした、費用もかかりました、公安当局は、このハトを警戒リストにいれ、今後も監視するようです」
「そうですか、安易なメール之(ママ)使い方に問題がありますね」
「はい、特に今回はやり方が悪質でした、散々、脅迫メールを送り、おびえていますね、と追いうちをかけています。黒いハトの性格がみえると、警備当局は分析しています。背後関係も調査中です」
「今後の対策ですが」
「情報公開ですね、脅迫メールは出来るだけ公開し、皆さんに考えてもらう、これも大事でしょう」
「なるほど、ありがとうございました」
「事件の背景は、折を見て報告します」
「期待しております」

 この記事を最後に、黒いハトの問題は取り上げられなくなりました。カンタローがこの記事に対して何も反論しなかったので、安心したのかもしれません。
 烏の森はまだ崩壊しないようです。それどころか新しいカラスがやってきたという話も聞きます。総裁カラスがサミットで演説したのに感動して移住を決意したカラスが大勢いたと、例の提灯持ちの新聞は伝えています。
 灰色カラスがカエルや野ネズミといったエサをぶら下げて、一生懸命に勧誘しているのでしょう。それもまた、哀しい話だとカンタローは思うのでした。
 灰色カラスも哀れな存在です。若い時には、不正に立ち向かう正義感の強いカラスでしたろうに。だから烏山の酋長カラスの独裁がゆるせなかったのでしょう。
 しかし、そのことが仇となって烏山を追われてしまい、どこをどうさまよったのか、烏の森に現れた時には、権力にすり寄ることで自分の思いを遂げるようなカラスになってしまっていたのです。

 やがてカンタローが善草寺を離れる日がやってきました。カンタローは山鳩上人の紹介で、街道一の博徒の親分旅烏ゴン蔵に預けられることになったのです。
 1羽でサミットに行ったのを上人が心配したようです。まさかサリンをまき散らすとは思わなかったでしょうが、単身で総裁カラスに談判に行ったと思ったのでしょう。
「お前は放っておくと何をするか心配でいかん」
 上人はそう言って、しばらくは旅烏のもとで修業をさせることにしたのです。なぜか上人と旅烏は昵懇の仲です。
「あれは旅烏もわしも若い頃のことじゃった。何十年もむかし、鳥の世界にも戦争があったということは教わったことがあるじゃろう。わしたちは負けてしまい、旅烏の縄張りの近くで謹慎させられておった。
 ところが、仲間の中に負けを認めないものたちがいてな。新天地に行って再起をはかると言って、船で逃走したのだよ。しかし、運悪く台風にあってこの港に押し戻されたのじゃ。そこを敵に攻め込まれたからたまらない。おおかたは捕まったが、中にはそこで戦死したものがあった。
 その戦死した鳥を葬ってはいかんという触れが出てな。わしらは仲間の遺体が朽ちていくのを、自分たちに難が及ぶのを恐れて何もできなかった。そのとき旅烏は憤然と、戦死したものに敵も味方もあるものか同じ仏じゃないかと、子分を使って遺体を集め、荼毘にふして埋葬してくれたのだ。わしはその心意気に感じ、自分の不明を恥じて経を読んで碑銘を書いたのだ。
 結局たいした咎めもなかったのじゃが、その時からわしは旅烏を尊敬し、義兄弟の付き合いをさせてもらっておるのじゃ。今では旅烏も博徒の足を洗い、烏岳の麓の開墾をしている。おまえそこに行って旅烏の手伝いをしてきてはどうじゃな」
 そんな話を聞かされて、カンタローはしばらく旅烏の世話になることになったのです。

 どこかで聞いたような話とは思いますが、これは鳥の世界の話です。この後の展開がどうなるのか。今のところは進展がないようです。区切りのいいところで「烏の森風雲録」第1部の終わりとさせていただきます。ご清聴、いやご愛読ありがとうございました。



Posted by 南宜堂 at 18:19│Comments(2)

この記事へのコメント

えええ、終わりですが。
毎日更新を楽しみにしていたのに。
残念ですが、連載ご苦労様でした。
Posted by 南陽 at 2010年07月16日 19:26
ご愛読ありがとうございました。
第1部は終了ですが、烏の森の件は何も解決していません。
今度は寓話の世界ではなく、現実の世界で解決に向けて努力する所存です。
また経過はお知らせします。
Posted by 南宜堂南宜堂 at 2010年07月16日 22:35
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