2011年09月05日

1軒の大きな古本屋

 最近の南宜堂ブログは、テーマが古本と古本屋のことに偏りすぎている 。その時々に思いつくことを書くという趣旨なのでどうしてもそうなってしまう。そして今日も古本ネタになりそうである。
 私たちの店は長野市にある。県庁所在地ではあるが、人口は大合併をして38万人くらい、大きな都市ではない。先日のあいおい古本まつりの後の食事会のときにお聞きしたのだが、長野市よりずっと大きな町である新潟市に古書店がほとんどないのだそうである。古町にあった佐久間書店、ここは疎開した会津八一御用達の店だったのだが、今はないのだという。
 長野市では今年になって、古本屋の数が前年までの倍くらいになった。 30代の若い人たちが新たにはじめたからだ。そういえば、30代・40代の人たちの古本についての発言が雑誌やネットでも目立っている。今この人たちが日本の古本の流れを作っているのかもしれない。
 会津八一に代表されるような古い世代の人たちは、研究の資料として、あるいはコレクションとして古本をもとめた。しかし、30代・40代の彼らは 本に対する考えがもっと自由で柔軟であるようだ。
 1967年生まれの南陀楼綾繁さんは、著書「一箱古本市の歩きかた」 の中で、興味深い指摘をしている。1971年の講談社を皮切りに、70年代になると大手出版各社が続々と文庫に参入してきたという事実である。
 さらには、南陀楼さんが青春期を迎える80年代になると、文庫本が書籍の出版の中心を占めるようになる。しかもその文庫本の内容たるや、一昔前の岩波、新潮社に代表される教養主義、名作中心から角川のようなエンターテイメント系、ちくまや中公、河出のような特徴的なラインナップの文庫も生まれてきた。かつては新刊で買い逃してしまうとなかなか入手が困難な本が、文庫の形で 容易に手に入るようになるのである。
 今長野市で主流になりつつある30代の古本屋店主たちはこのような本の環境の中で育ってきた人たちなのだ。言ってみれば、教養主義としての書籍、名作としての文庫という固定観念からは自由な世代である。一方で私たちの光風舎は、その橋渡し的なところにいるのかと思う。ちくまや中公文庫はなるべく揃えようとしている。一方で岩波文庫や講談社学術文庫もおろそかにはできないと思っている。「ガロ」から出た赤瀬川原平や南伸坊、「本の雑誌」の椎名誠などは私たちの同世代である。なんとか若い世代の感性について行けそうな部分もあるのだ。 
 古本を愛好する人たちが変わりつつあるのかということは感じている。資料としてあるいは教養として本を求める時代から、自分の興味の赴くままに本を求め、本を読むという時代に変わっているようなのだ。先ごろ芥川賞を受賞した西村賢太さんは、大正時代に世に受け入れることなく死んだ作家藤澤清造に魅かれ、その全集を編むことをライフワークとしている。
 岩波文庫や新潮文庫の網から漏れてしまった作家に興味を持ち、自らのブログでそのことを発信している読書人も多い。本を巡る世界が多様化しているようなのだ。本の世界だけを見るとそういう傾向にあるのだが、娯楽とかエンターテイメントとかいわれる世界も多様化しており、その中で読書の占める割合は縮小しているような気がする。それが新刊書店や古書店の減少となっているのだろう。
 本の内も外も多様化しており、本を読む人たちは減少しているというのが、現在の本と書店をめぐる情況なのである。各地で古本市が開かれたり、古本をめぐるブログも充実してと、一見豊かに見える古本屋の周辺も、絶対的な読書人口の減少という環境の中にある。 
 そういう中で新しく古本屋ができるということは、ちょっと不思議な現象として人々は見ていた。そして今、開店からほぼ3ヶ月が経過して、それぞれの店はまだ模索段階にあるようだ。周囲にある私の店やその他の古本屋さんもまだその影響をはかりかねているようである。
 最近、四谷書房さんのブログでこんな言葉を見つけた。
「本の街・神田神保町は、一軒のすばらしい本屋なのです。」(柴田信「ヨキミセサカエル」より)
 神田と比較してはおこがましいような気がするが、長野の古本屋の集合も一軒の大きな古本屋のように機能すれば、互いに補完しあって共存できるかもしれないというのが、私が今のところ思っていることである。


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Posted by 南宜堂 at 16:33│Comments(0)古本屋の日々

 
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