2012年01月18日

甘ったるい話

暮れから正月にかけて「ビブリア古書堂の事件手帖」(メディアワークス文庫)を読んだ。初老のオヤジには手に取るのが恥ずかしいような表紙の本だが、業界ものにはどうしても手が伸びる。

面白かった。若い日の苦い思い出のような内容だが、古本好きの作者が書いたのだということがよくわかる。紀田順一郎さんのものより情緒的でいい。この本の中で小山清の『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)という文庫本が小道具に使われている。

小山清のことは少し前にこの欄で書いた。私生活は恵まれたものではなかったが、作品は透明な心で書かれた童話のような作品である。『ビブリア古書堂……』の中で、小山の小説を「あれは甘ったるい話を書く奴に感情移入する話なんだ」と登場人物の一人に言わせているが、この本のことをも言っているような気がした。

甘ったるい話というのは人は馬鹿にするが、この年になっても好きだし、生きていくなぐさめでもある。寺山修司がジャイアント馬場にあった時のことを書いている。
「何年か前に、ジャイアント馬場に会ったときに、彼は体の大きさに似合わぬような弱音をはいた。それは、平均的なものを優先する社会が、彼のような規格外の大男をどのように疎外してきたか、ということであり、もはやヘラクレースのような英雄は、見世物にしかなれないのだ、といったようなことであった。
いやなことが重なると、ワシは唄をうたうんです。
と、ジャイアント馬場が言った。
何の唄?
と聞くと、「砂山」ですよ、とこたえて、唄いだした。」(『日本童謡集』)
ジャイアント馬場は新潟の出身である。「砂山」の唄に感情移入して、故郷の幼い日を思うのだろうか。そういえば、馬場は稀に見る読書家だったと聞いたことがある。
甘ったるい話


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Posted by 南宜堂 at 07:21│Comments(0)古本屋の日々

 
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