2012年02月02日

「日暮硯」の教えと橋下市政

橋下徹大阪市長の政治手法には、賛否両論があるようだが、私はどうも好きになれない。というより、非常に危険なものを感じる。
わかりやすい形で攻撃対象をつくり、そこを徹底的に叩くことで市民の拍手喝采を浴びる。今の敵はさしずめ市の職員労働組合のようだ。公務員に対して良い感情を抱いていない市民の憎悪を掻き立てるようなやり口には嫌悪さえ感じる。
この不況の時代にあって、公務員は恵まれすぎていると思う。仕事のわりに高い給料を取る彼らには、税金泥棒の罵声も浴びせたくなるというものだ。しかし、彼らとて人の子、攻撃されて愉快なはずはない。市民と市役所の職員が憎しみあって、いったいどんな政治ができるというのだろうか。

信州松代藩に恩田木工という家老がいた。「日暮硯」の主人公として、松代藩の財政を立て直した人として有名である。
松代藩真田十万石は、真田信之(有名な幸村の兄だ)の時代には20万両という蓄財があったにもかかわらず、度重なる幕府からの命による御手伝い普請の負担で徐々にその金を使い果たしていった。加えて松代領内には、千曲川、犀川という2つの大河が流れており、絶えず水害に悩まされた。そのため藩の財政は益々窮乏し、ついには幕府から借金をするようにまでなってしまった。
6代藩主幸弘の時、恩田木工は勘略奉行に抜擢され、藩の財政再建を担うことになった。その恩田木工の言行を記したのが「日暮硯」であるのだが、その中にこんな話が書かれている。

ある日、木工は領民たちの代表を集めて、藩の役人の振る舞いで日々困っていることがあるならば、遠慮なく届け出るようにと申し付けた。
領民たちは、役人の横暴や無理な要求にはいつも苦しめられていたので、その一々を書面にしたためて木工に差し出した。
木工は、これは自分が見るものではなく、藩公に直接お見せするものだと、封を切ることなく幸弘のもとに届けた。一部始終に目を通した幸弘は、木工を呼んで「わが藩の中でとんでもないことが行われているようだが、いかがいたしたものか」と訊ねた。
これに対して木工は「これらの者共は、どちらへもつく者ゆゑ、善き人が使へば善くなり、悪しき人が使へば悪しくなるものに御座候へば、虞るに足り申さず候。」
だから、どうかその者共に自分の相談相手になるように命じてほしいと、木工は幸弘に願い出た。
幸弘より直接に木工の相談相手となるよう命じられた役人たちは、これは木工が殿に頼んでくれたものにちがいない。ここまで見透かす木工の遠望深慮は驚くほかはない。こうなったら、我らは木工と運命を共にし、忠義を尽くそうではないかという話になった。

こういう話を聞くと、どうもうますぎる話で、作り話ではないかと眉に唾をつけるのだが、実話かどうかは別に、恩田木工の政治の基本理念をここに見るべきではないだろうか。憎しみあいから生まれるものは戦いだけである。
為政者の役割は、様々な人材をどのように使って市民のために役立てられるかを考えて実行することだろうと思う。橋本市長にはそういうところがない。


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Posted by 南宜堂 at 20:07│Comments(2)雑記

この記事へのコメント

私も橋下市長の独裁的手法には若干の疑問を感じております。
しかし、公務員は大阪に限らずコネで採用されることが多く、採用者数もデタラメで、どの部署でも過剰人員が配置されていると聞きます。事実、長野市でもコネで採用された方を何人も知っています。 また、内情もぬるま湯に浸かりきって腐敗した人材も多数いるとも聞きます。当然真っ当な方が大半だと思いたいのですが。
以前、知事からもらった名刺を知事の目の前で折った方がいたでしょう。このような非常識な方が公務員には多いのも事実のようです。保険屋さんから聞いた話では、横柄な態度をとる公務員の事故処理が一番嫌だと嘆いていましたからね。
今回の大阪の場合、内情がかなり悪すぎます。恩田木工の手法をとるには遅すぎたのではないでしょうか。ある程度独裁的と受け取られようが、大鉈を振るう大手術の結果も見てみたいですね。
Posted by 長野市在住 at 2012年02月04日 13:01
コメントありがとうございます。
公務員の実態というのはおっしゃる通りかと思います。
どうも「日暮硯」というのは、恩田木工が実際にとった政策というより、木工の理念を書き記したものという感じがいたします。
私が疑問に思うのは、橋下さんが計算の上に市の組合をたたいているのではないかということです。市民の憎悪をわざと公務員に向けようとしているのではないか。その目的はおそらく自分の支持率を上げて、市長としての権力を振るいやすくするためではないかと、これは邪推でしょうか。
恩田木工もおそらく計算の上に、役人たちを使おうとしていたのではないか。私は個人的には木工の手法を支持したいと思います。
Posted by 南宜堂 at 2012年02月04日 14:53

 
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