2010年08月31日
風雲烏城 19
「ここが永禄四年に大きな戦のあった川中島か」
一面に広がる黄金の田を見ながら三好清海入道がつぶやいた。
上田城下を立った猿飛佐助、清海、禰津甚八、由利鎌之助の四人は、千曲川に沿って下って、今犀川との合流地点である川中島にたどり着いたところである。善光寺別当より諸国通行自由の善光寺聖の通行手形を清海に授けてもらうために寄り道をしたのだ。
「清海のためにとんだ寄り道になってしもうたわい」
佐助は不平を言ったが、
「まあまあ、わしはまだ善光寺に参ったことがない。ちょうどいい機会じゃないか」
由利鎌之助が取りなして、一同善光寺に向かうことになったのである。
時は八月、秋の盛り、頭を垂れた稲穂が、午後の陽に輝いている。
「百姓は生きるためには米を作らにゃならんからな。戦で踏み荒らされた田だって、何年もすれば立派な水田にもどるさ」
甚八は眩しそうに稲の波を見やった。
「あの戦では、武田典厩様、望月盛時様、山本道鬼様も命を落とされた激しい戦いじゃった。何せこのあたりの小川が血の色に染まったのが、昨日のことのように思い出されるわ」
由利鎌之助が誰もいない田に向かって手を合わせた。九死に一生を得た戦いのことを思い出しているようであった。
「多くの名だたる武将が命を落とした戦いであったが、民百姓の苦しみも並大抵ではなかったと聞いている。甲斐の武田も越後の上杉も意地の張り合いで信濃まで出庭って来て、結局ひどい目にあったのは信濃の百姓じゃ」
甚八が吐き捨てるようにつぶやいた。その表情は怒っているようにも見えた。
「甚八、もしやお前の本当の両親は、戦で命を落としたのか」
甚八の表情から何かを察したのか、佐助が訊ねた。
「わからん。わしはものごころつくころにはもう親はいなんだ。道ばたで泣いているのを誰かに拾われて、千代様に育てられたのだからな」
「まあ、その話は後でゆっくり聞こう。少し急がねば、日の暮れる前に善光寺にたどりつけないぞ」
清海が西の空を見て言った。
一面に広がる黄金の田を見ながら三好清海入道がつぶやいた。
上田城下を立った猿飛佐助、清海、禰津甚八、由利鎌之助の四人は、千曲川に沿って下って、今犀川との合流地点である川中島にたどり着いたところである。善光寺別当より諸国通行自由の善光寺聖の通行手形を清海に授けてもらうために寄り道をしたのだ。
「清海のためにとんだ寄り道になってしもうたわい」
佐助は不平を言ったが、
「まあまあ、わしはまだ善光寺に参ったことがない。ちょうどいい機会じゃないか」
由利鎌之助が取りなして、一同善光寺に向かうことになったのである。
時は八月、秋の盛り、頭を垂れた稲穂が、午後の陽に輝いている。
「百姓は生きるためには米を作らにゃならんからな。戦で踏み荒らされた田だって、何年もすれば立派な水田にもどるさ」
甚八は眩しそうに稲の波を見やった。
「あの戦では、武田典厩様、望月盛時様、山本道鬼様も命を落とされた激しい戦いじゃった。何せこのあたりの小川が血の色に染まったのが、昨日のことのように思い出されるわ」
由利鎌之助が誰もいない田に向かって手を合わせた。九死に一生を得た戦いのことを思い出しているようであった。
「多くの名だたる武将が命を落とした戦いであったが、民百姓の苦しみも並大抵ではなかったと聞いている。甲斐の武田も越後の上杉も意地の張り合いで信濃まで出庭って来て、結局ひどい目にあったのは信濃の百姓じゃ」
甚八が吐き捨てるようにつぶやいた。その表情は怒っているようにも見えた。
「甚八、もしやお前の本当の両親は、戦で命を落としたのか」
甚八の表情から何かを察したのか、佐助が訊ねた。
「わからん。わしはものごころつくころにはもう親はいなんだ。道ばたで泣いているのを誰かに拾われて、千代様に育てられたのだからな」
「まあ、その話は後でゆっくり聞こう。少し急がねば、日の暮れる前に善光寺にたどりつけないぞ」
清海が西の空を見て言った。
Posted by 南宜堂 at 17:15│Comments(0)
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